投球後のピッチャーがアイシングに求めるもの
現代の野球では、投手が投球後にアイシングをすることが半ば常識的になっています。それに投手が求める身体的なメリットはほとんど効果を示していないのですが、投手はどのような効果を求めているのでしょう。多くの選手は「疲労回復」と答えると思いますが、目的が「疲労回復」であればメリットはないと言わざるを得ません。逆にデメリットさえあるのです。
スポーツに取り入れられた経緯
野球の中継等を見ていると、先発ピッチャーが降板後ベンチでアイシングをしながら試合を見ているシーンを見たことがある方は多いでしょう。実は先発投手だけではありません。中継ぎ、抑えなど先発投手のように多くのボールを投げてない投手も同じです。
野球だけではなく、捻挫などの場合も同じです。そもそもなぜスポーツ界に浸透しているのでしょうか。冷やすことで血流やリンパの流れをせき止めて、せき止めたものを流した時に一気に疲労物質や老廃物が流れるとして、「疲労回復」に繋がるとして始められました。さらに、神経を鈍らせて痛みを軽減し、炎症部分の鎮静化が実現するとされ、ピッチャーの投球後や持病のある選手、外傷、筋肉の張りには「冷やす」ことが主流となりました。
冷やすことと疲労回復の関係
確かに体の一部を冷やして患部を圧迫すると、毛細血管が収縮され、血流はスムーズには流れなくなります。生理現象として考えると、この効果で、血中の発痛物質や発痛促進物質が患部に伝達されにくくなり痛みを抑えることは可能となります。さらに神経の興奮を抑えるので二重の意味で「痛み」を和らげる効果があります。
しかし重要なのは、血流やリンパの流れを一旦せき止めて、せき止めたものを流した時に一気に疲労物質や老廃物が流れるか、つまり、せき止めたものを流すことで本当に毛細血管に一気に血液が流入する、というメリットが体内で起こりうるかという点なのです。
人体には、血液が流入しなければ、他の臓器への血液の流入を促進するという調整機能があります。そのため、血流やリンパの流れをせき止めてもダムの様には溜まりません。つまり「勢いよく疲労物質などを流す」ことは起こりえないのです。
逆に、身体の一部を冷やして血流を止めたら栄養や修復物質まで運べなくなり、むしろ疲労回復の妨げになってしまうデメリットが起こります。身体の自己回復機能を阻害してしまう事態となってしまうのです。
アイシングが必要な時
体の一部を冷やすことは痛みを取り除く一定の効果はありますが、疲労回復の効果は期待できません。かえってデメリットさえあります。
アイシングをしても特に問題がない体の部位は、極端に言えば治らなくても問題ない部位ということになります。ケガの種類では打撲や打ち身で、野球で言えば「デッドボールを受けた」、「練習中にどこかに足をぶつけた」という類のケガです。
どうしても外せない試合中などに痛みが我慢できないなど、緊急性がある場合にしか使う必要はないのです。